少子高齢化が進み、優秀な人材の獲得競争が激化する中、従来の採用手法では限界が見えつつあります。そこで注目されているのが「採用マーケティング」です。
採用マーケティングとは、マーケティングの考え方を採用活動に取り入れ、自社が求める人材を惹きつけ、応募・入社に導く一連のプロセスを指します。企業の認知度向上から採用ブランディングまで、戦略的に取り組むことで、採用の質とスピードを高められます。
本記事では、採用マーケティングの重要性や進め方、期待できるメリットについて詳しく解説します。採用活動に悩む人事担当者の方は、ぜひ参考にしてみてください。
自社の採用手法を見直して、採用力の強化につなげましょう。
採用マーケティング戦略のノウハウをまとめた資料は以下のボタンからダウンロードいただけます。この機会に自社の採用活動を前に進めるための参考にしてください。
採用マーケティングとは、単に求人募集をかけるだけでなく、マーケティングの概念と手法を採用活動に応用する戦略的アプローチです。従来の採用活動が顕在層(今すぐ転職したい人)に焦点を当てていたのに対し、採用マーケティングは、転職潜在層を含むより幅広い候補者に対し、企業や仕事の魅力を戦略的に発信します。
その目的は、企業の認知度と志望度を高め、「自社のファン」を増やすことにあります。究極的には、入社後の定着や活躍までを見据え、企業と候補者のミスマッチを減らし、企業の持続的な成長に貢献することを目指します。
これは、企業が一方的に人材を選ぶのではなく、求職者から「選ばれる企業」になるための、現代に不可欠な戦略と言えるでしょう。長期的な視点で、最適な人材を確保し、組織力を高めることが採用マーケティングの真髄です。
採用マーケティングでは、以下の特徴を押さえながら進めていくことが大切です。
自社が求職者に伝えたい情報ばかりを先行させがちですが、企業を選ぶのは求職者であることを忘れてはいけません。採用マーケティングにおいては、求職者が知りたい情報を提供し、適切なコミュニケーションを通じて自社の魅力を発信しましょう。
採用マーケティングと似た言葉に「採用ブランディング」があります。採用ブランディングとは一言で言うと、企業の雰囲気や文化を伝え、魅力的な企業としてのイメージを構築することです。
一方、採用マーケティングはそのイメージを活用し、適切な人材を引き付けるための戦略と手法を展開することです。
採用ブランディングは企業全体のイメージ形成に焦点を当てており、採用マーケティングは具体的な採用活動や応募者へのアプローチに焦点を当てています。
採用マーケティングでは、入社前から入社後までを一貫として考えます。
まずは認知(自社を知っている)から始まります。その後、興味(自社が気になっている)、情報収集(自社について調べている)、応募、選考、内定と進みます。もちろん求職者は複数の会社で選考を進めているため、応募から内定の段階では、自社の優先度が落ちないような関係構築が必要となります。
入社後も次年度以降の採用活動へ繋げていくため、継続的な発信が必要です。
採用マーケティングでは、認知から内定承諾による入社までを終わりとするのではなく、その後の入社以降も範囲としています。長期的かつ継続的に採用活動を進めることで、マッチング精度の向上や採用コストの削減に繋がります。詳しくは後述で説明します。
採用マーケティングの考え方が注目されているのはなぜでしょうか。
それは、従来の採用手法である広告や人材紹介サービスの活用だけでは採用が難しくなっているためです。その要因として、「労働人口の減少」「仕事選びの価値観」「採用手法の多様化」が挙げられます。
労働人口の減少の背景には、言うまでもなく少子高齢化の急速な進展があります。
日本の労働人口は1998年をピークに減少に転じており、高齢化により労働力人口比率が相対的に低い高齢者層の人口が増えているため、労働力人口が減少しています。
引用:パーソル総合研究所・中央大学「労働市場の未来推計 2030」
さらに、今後労働の中核的な担い手となる15歳から64歳の人口は、2025年から2040年にかけて減少が加速します。また、2025年には75歳以上の後期高齢者人口が国民の5人に1人になる超高齢化社会を迎えます。
これにより、労働人口の減少は2025年問題の最大の課題と言われています。労働人口の減少により、さまざまな産業が人材不足となり、採用競争の激化が予想されます。
従来の給与や福利厚生だけでなく、仕事の意義や社会的貢献度など、働く価値観が多様化しています。
Z世代(1997年~2012年生まれ)は、労働市場の中核を担う存在となっています。Z世代は、生まれたときからインターネットの膨大な情報に触れており、SNSの利用が日常的で、多様性をより尊重する傾向があります。
また、2020年から流行した新型コロナウイルスにより、人々の仕事選びの価値観が大きく変わりました。近年、仕事選びのポイントとして、仕事と生活を調和させるワーク・ライフ・バランスがより重要視されています。
市場が買い手から売り手へ変化していることもあり、企業は個々の価値観に対応できているかが問われています。そのため、企業は自社の魅力を伝えるために、採用マーケティングを活用して自社の価値観や文化をアピールする必要があります。
従来は、求人広告や人材紹介、求人サイト、転職サイトなどが一般的な採用手法でしたが、最近ではダイレクトソーシング(企業が直接候補者にアプローチする方法)やリファラル採用(社員の紹介を通じて採用する方法)が注目を集めています。
採用手法の種類 | 従来の採用手法 | 近年の採用手法 |
求人広告 | 新聞、雑誌、求人情報誌 | オンライン求人サイト(Linkedln、Indeedなど) |
ハローワーク | 公共職業安定所 | 公共職業安定所 |
リクルート活動 | 大学や専門学校への訪問 | 大学や専門学校への訪問 |
転職エージェント | 人材紹介会社 | 人材紹介会社 |
求人掲示板 | 社内掲示板、地域掲示板 | オンライン掲示板、SNS |
社員紹介制度 | 社員からの紹介 | 社員からの紹介 |
企業説明会 | 企業主催の説明会 | オンライン説明会、ウェビナー |
合同企業説明会 | 複数企業の合同説明会 | オンライン合同説明会 |
求人チラシ | 地域配布のチラシ、ポスティング | デジタルチラシ、SNS広告 |
企業ホームページ | 公式ウェブサイト | 公式ウェブサイト |
SNSリクルーティング | - | X(旧Twitter)、Facebook、Instagramなど |
オンラインリモート面接 | - | Zoom、Teams、Google Meetなど |
モバイルアプリ | - | 求人アプリ |
それぞれの採用手法には手間やコスト、アプローチできるターゲット層などの違いがあり、ただ全てを手当たり次第に始めれば良いというものではありません。どの採用手法を活用していくか、戦略的に選択する必要があります。
採用手法を見直すことで、これまでアプローチできなかったターゲットにリーチする可能性もあります。
採用マーケティングを取り入れることの重要性について、4つの視点で説明していきます。
採用マーケティングでは、まず採用したい人物像(ペルソナ)を明確に設定し、そのペルソナに合わせた施策を展開することが重要です。これにより、自社にマッチした人材に対して適切なアプローチをすることができます。選考時や採用後のミスマッチを最小限に抑えるためにも、自社が求める人物像は明確にしておきましょう。
また、採用サイトやSNSなどの情報発信の場において、求める人物像や社員の働き方、企業文化、社風など、多岐にわたる魅力を伝えることが必要です。
採用ペルソナに基づいた的確な情報発信は、自社の価値観や文化に共感する人材を引きつけ、入社後の高い定着率に貢献し、結果として組織全体の生産性向上にも寄与します。これらのメリットは、単なる人材確保に留まらず、企業の持続的な成長戦略において不可欠な要素となります。
採用マーケティングでは、まず自社を認知してもらう段階から戦略を構築します。これまでアプローチできなかった潜在層にも継続的なアプローチと企業の魅力発信を行い、認知度の向上を図ります。
さらに、認知段階から興味を引き、応募に繋げるために、採用イベントや採用サイト、SNSなどでコンテンツを充実させていきます。これにより、応募数の増加が見込まれ、結果として採用の精度も向上することが期待できます。
有能な人材を採用することで、企業は革新的なアイデアや高度なスキルを取り入れることができ、結果として市場での競争優位性を保つことができます。
具体的には、新商品の開発やサービスの向上、業務効率の改善など、さまざまな分野で他社より優れたパフォーマンスを発揮することが可能になります。
採用マーケティングは、このような優れた人材を引き付けるための重要な手段であり、エンプロイヤーブランディングはより強固なものとなっていきます。そうなることで、自然と優秀な人材が集まる磁力を持つようになるのです。これは、一時的な採用キャンペーンでは決して得られない、持続的な採用競争力です。
採用マーケティングに取り組むことで、高額な求人広告やエージェントへの依存を減らし、採用コストを削減できます。
継続的な情報発信を通じて自社の認知度が拡大し、興味を持つ人が増えるため、知名度向上により広告への依存度が低下します。また、ナレッジの蓄積と改善の繰り返しにより、コストパフォーマンスが安定し、長期的なコスト削減が期待できます。特に、質の高いコンテンツやエンプロイヤーブランディングが確立されれば、自然な流入が増え、費用対効果が向上します。
それでは採用マーケティングを自社に取り入れたいとき、何から始めればよいのでしょうか?実践方法を4つのステップで説明します。
まずは自社の分析を行います。
会社の文化、価値観、働く環境など、自社の強みや弱みを認識することが重要です。この際、選考時によく求職者から名前が挙がる企業との比較も忘れずに行いましょう。
自社の社員に対してアンケートを実施するのも効果的です。以下のような質問を通じて、社員の意見を集めましょう。
これらの意見を集めることで、自社の強みや弱みが整理され、より明確に理解できます。
まず、自社が求める人材の特徴を具体的に決めていきます。
「どのような人材が必要か?」や「どの人材に来てほしいか?」をはっきりさせることで、アプローチの対象を絞り込むことができます。この段階で決めた人材が「ターゲット」となります。ターゲットが曖昧だと、施策の効果が薄れ、リソースが無駄になってしまいます。
ターゲットが定まったら、さらに掘り下げて「ペルソナ」を作成します。ペルソナとは「自社が求める理想の人物像」のことです。
この人物像を具体的に作り込むことで、ニーズや達成したいこと、行動パターン、情報源、心理的特性などを理解しやすくなります。これにより、ターゲットに合わせた効果的な施策を展開することができます。
関連記事:採用ペルソナとは?採用ミスマッチを防ぐ具体的な作り方を解説
ターゲットとペルソナの設定ができたら、次にキャンディデート(求職者)ジャーニーを作成します。
キャンディデートジャーニーとは、カスタマージャーニーを求職者向けにアレンジしたものです。認知・情報収集から応募・内定承諾までの一連のストーリーを組み立て、求職者がどのようなプロセスを経て採用に至るのかを設計します。
キャンディデートジャーニーの例
その後、キャンディデートジャーニーで設定した各プロセスに対して、具体的な施策の設計を行います。各プロセスにおいて求職者が求めるニーズに対し、どのようなツールを使って、どんな内容の情報を提供するかを設計していきます。
これにより、求職者の体験が一貫してスムーズで魅力的なものになり、採用の効果が高まります。
採用活動の各段階で収集されるデータを分析し、その結果をもとに戦略を調整します。
応募数、採用率、離職率などのKPIsを定期的に評価し、必要に応じて戦略を微調整することが重要です。
採用活動が「人事の仕事」として孤立していませんか?実は採用を成功させる鍵は、社内のあらゆる部署を巻き込むことにある、という視点を持つことが重要です。採用は、人事部だけの問題ではありません。現場の社員こそが、自社の魅力や課題、リアルな仕事内容を最もよく知る「最高の伝道師」だからです。
例えば、現場社員に採用ブログの記事を書いてもらったり、採用イベントに参加してもらったり、リファラル採用(社員紹介制度)を推進したりと、社員一人ひとりが採用に関わることで、求職者にとっては信頼性の高い情報源が増えます。
採用マーケティングの導入は、短期的な「人手不足の解消」に留まらず、企業の持続的な成長への「投資」であることを経営層に理解してもらうことが重要です。経営層が採用を単なるコストと捉えている場合、採用マーケティングへの予算や人的リソースの確保は困難になります。
そこで、採用活動が事業成長にどう貢献するか、具体的な投資対効果(ROI)で示す視点が必要です。例えば、採用マーケティングによって定着率が向上すれば、再採用コストや教育コストの削減に繋がります。質の高い人材の採用は、イノベーション創出や生産性向上に直結し、企業の競争力を高めます。
また、エンプロイヤーブランディングの強化は、企業の社会的な評価を高め、顧客からの信頼獲得や新しい事業機会の創出にも寄与します。過去の採用データや競合他社の事例を分析し、「採用マーケティングは企業の未来への先行投資である」という長期的な視点と具体的な数字を提示することで、経営層を巻き込み、戦略的な意思決定を促すことが可能になります。
採用を人事部任せにせず、現場社員一人ひとりが「採用の主役」となることで、求職者は企業のリアルな姿や働きがいをより深く理解できます。現場社員が採用に貢献できる具体的な方法は多岐にわたります。最も効果的なのは、リファラル採用の推進です。
社員が自身の友人・知人に会社を紹介することは、高いエンゲージメントを持つ人材の獲得に繋がりやすく、採用コストも抑制できます。また、採用オウンドメディアやSNSでの社員インタビュー、日々の業務紹介、オフィスツアー動画への出演は、求職者が企業の雰囲気や文化を肌で感じるための貴重なコンテンツとなります。
面接官としての役割も重要で、求職者との対話を通じて企業の魅力を伝え、候補者体験を向上させるための面接官トレーニングも不可欠です。
さらに、内定者や新入社員のオンボーディングに現場社員が積極的に関わることで、早期の立ち上がりをサポートし、定着率を高めることができます。社員が採用活動に積極的に関わる環境を整備し、成功事例を共有することで、全社的な採用意識を高めることが可能です。
多くの企業が採用マーケティングを導入し、ミスマッチの解消と定着率向上に成功しています。
LINEヤフー株式会社は開発者ブログを通じて技術者向けのリアルな情報を発信し、エンジニア採用におけるミスマッチを抑制しています。彼らは技術的な深掘りや開発現場の雰囲気を伝えることで、求職者が自身のスキルや志向と企業の環境が合致するかを事前に判断できる機会を提供しています。
引用:ヤマハ株式会社
ヤマハ株式会社は採用サイトで多様な社員のインタビュー記事を掲載し、事業の多角性や社員の働きがいを具体的に伝えることで、求職者が自身のキャリアビジョンと企業の方向性を照らし合わせやすくしています。
これらの事例から共通して学べるのは、ターゲットが求める情報を、彼らが最もアクセスしやすいチャネルで、かつ企業の「リアル」を包み隠さず伝えることが、ミスマッチを防ぎ、長期的な定着に繋がる鍵であるということです。
労働人口の減少や採用手法の多様化により、採用市場の競争はますます激化し、複雑化していくことが予想されます。このような状況下では、従来の採用手法だけでは限界があり、新たなアプローチが必要不可欠です。
企業は、まず「優秀な人材」の定義を見直し、自社に適した人材像を明確にすることが重要です。そして、そのターゲット層に合わせた採用マーケティング戦略を展開することで、理想の人材を引きつけ、競争力を高めることができます。
適切な戦略を立て、柔軟に対応することで、困難な状況下でも採用活動を成功に導くことが可能です。今回ご紹介した採用マーケティングの手法を取り入れ、長期的かつ継続的な採用活動を行うことで、人材の獲得と組織の発展を実現していきましょう。